個人で日経225チャート
CDDを使った天候デリバティブを購入すると電力会社は減収リスクを部分的にヘッジしつつも余計なベーシス・リスクを増やしてしまうことになります。
しかしながら逆にベーシス・リスクを減らすために減収をそのまま補填するような証券を発行すると今度は取引すべきリスクに関する情報の非対称性が投資家との間で大きくなりすぎてしまい投資家が取引を渋るようになってしまうのです。
このような状況をヘッジ効率の向上と情報の非対称性の緩和のトレード・オフと呼びます。
このトレード・オフのせいで場合によっては取引がほとんど成立しなくなってしまうこともありえます。
CBOT(シカゴ商品取引所)やBCOEに上場された保険デリバティブはその例であると考えられています。
これらの保険デリバティブは米国の州や州の集合といった一定の地域で生じる自然災害に関してその被害への保険金支払いリスクを取引するものです。
ここでもしもこのデリバティブの支払い額を個々の保険会社の保険金支払い額で定めるならデリバティブは取引されなくなってしまうでしょう。
個々の保険会社は自分の保険金支払いリスクについては詳しく知っていますからデリバティブで取引されるリスクについて保険会社と投資家との間に大きな情報の非対称性が存在してしまうからです。
そこでデリバティブの支払い金は対象地域の保険産業全体での保険金支払い額で定められました。
対象地域にある保険会社の保険金支払い額の加重平均として計算される指数で定めるのです。
ところがこうして作られた保険デリバティブはほとんど取引されませんでした。
個々の保険会社がヘッジしたいリスクは自分自身の保険金支払い額であり産業全体の支払い額とは(誤差である)ベーシス・リスクが大きすぎてヘッジの役には立たなかったのです。
結局このリスクに関して作られた証券はいまのところどれもあまり取引されず成功例があるとは言えません。
このような事例は資本市場での証券によるリスク取引の限界を示唆するものかもしれません。
リスクを取引するには売り手と買い手との間でのそのリスクに関する情報の非対称性を緩和することが不可欠です。
しかしリスクが証券として不特定多数の投資家と取引されるような環境では証券の発行者が情報を持たないリスクについてでなければこのことの実現は困難です。
このため情報の非対称性をなくそうとすると発行者のリスク・ヘッジには役に立たない証券になりリスク・ヘッジに役立てようとすると今度は情報の非対称性が大きすぎる証券になってしまうのです。
実は情報の非対称性の問題を緩和する方法は取引されるリスクの内容を選ぶことだけではありません。
取引相手を選べる場合長期的な取引関係を考えれば取引の履歴や取引相手としての評価も重要になりそのために相手を騙すような取引はしないという誘引もわいてきます。
情報の非対称性が大きくなる傾向があるリスクを取引するにはこのような仲介市場が有効になります。
必ずしもすべてのリスクが証券として資本市場で取引できるわけではなく各々のリスクの属性に適した様々な市場が並存することがリスクの効率的な取引という観点からはより自然なことなのです。
ここまでリスクを取引するという点に注目して証券化の果たす役割を概観して来ました。
しかしながらリスクを証券として取引する方法は何も証券化だけではありません。
デリバティブもあります。
前章で触れた天候デリバティブと天候リスクの証券化の例からもわかるように実は両者は非常に密接な関係にあります。
デリバティブ(derivative派生証券)とはそもそもすでに市場で取引されている商品や証券の価格もしくは金利や株価指数に従ってその支払い金が決定される証券を意味しました。
市場で決定される何らかの値から派生してその価値が決定される証券という意味で派生証券と呼ばれたわけです。
一例としてある株式の上に書かれた(ある株式を原資産とする)満期日T行使価格Kのヨーロッパ型フット・オプションを考えましょう。
これは時点Tにおいてのみ対象となる株式1単位をあらかじめ定めた行使価格Kで売却する権利です。
ヨーロッパ型アメリカ型(American)は満期日までならいつでも権利行使できるオプションです。
またフット・オプションは売る権利コール・オプションは買う権利です。
このフット・オプションの購入者は対象株式の価格S(T)が行使価格Kよりも低い(S(T)<K)場合には権利を行使しS(T)の値段しかないものをKの値段で売ってK-S(T)の利得を得ることができます。
逆に時点Tの対象資産の価格S(T)が行使価格Kよりも高い(S(T)≧K)場合には高い値段のものを安く売るのは損ですから権利は行使せず利得は0となります。
このフット・オプションの支払い金が対象となる株式の価格から派生して決定されることがわかります。
同様に株式・通貨・商品等を事前に定める価格で買う権利であるコール・オプション将来の取引価格や数量を事前に決める先渡し、契約や先物契約変動金利を受け取る代わりに固定金利を支払う(またはその逆を行引金利スワップ契約等も商品や証券の市場価格)、もしくは金利や指数からその価値が派生して定まる古典的なデリバティブの例となります。
このような古典的デリバティブが取引される一方で新たなタイプの“デリバティブ”も次々に生み出されました。
その重要な例の一つが社債の発行主体が債務不履行を起こしたとき定められた価格で社債を売る権利であるデフォルト・オプション等のクレジット(信用)・デリバティブです。
しかしながら厳密に言えばこれは債務不履行という出来事の発生に従って支払い額が決定される金融商品であり市場で取引されている商品や証券の価格から“派生”してその価値が定まるものではありません。
さらに現在では天候デリバティブのようにそもそも市場で取引されていないCDDやHDDといった気温の指標から支払い額が決定される証券-その意味で明らかに派生ではない証券-までもが“派生”証券(デリバティブderivative)と呼ばれています。
デリバティブという言葉に込められた派生”という意味合いはその発展に伴い次第に曖昧になってきているのです。
デリバティブの役割はもちろん第一にリスクを取引するための手段を市場参加者に提供することです。
ですから近年のリスク管理需要の高まりがそのままデリバティブ取引の増加に結びついたのも当然です。
改めて言うまでもありませんが例えば株式フット・オプションを購入すれば株価の下落による損失を一定額に抑えられます。
為替の先渡し契約を結べば将来の受け渡し時点の為替レートを事前に決めることができます。
金利のスワップ取引を行えば変動金利支払いを固定金利支払いに変換することができます。
古典的デリバティブを利用することで、商品や証券の価格変動である市場リスクを様々に加工・取引しより望ましいリスク負担を達成することができるわけです。
デリバティブは取引の対象とするリスクの範囲を拡大することでリスク取引の機能を発展させました。
なかでもクレジット(信用)・デリバティブは信用リスクを取引する手段として現在非常に重要な市場を形成しています。
例えばデフォルト・オプションを購入すれば債券の発行主体が債務不履行(デフォルト)を起こしても権利を行使してその債券を額面でオプションの売り手に売却し額面に等しい金額を回収することができます。
この結果債券の信用リスクはデフォルト・オプションの取引を通じてオプションの買い手から売り手へと移転されることになります。
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